遠笛

左官−挾土秀平のブログ
再び左官メタモルフォシス



最近、テレビ画面に出ることが多かったせいか

応援だったり、
いろんな相談や、依頼的なメールなど

様々な人から、
様々なコメントをもらっている。


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数日前は
佐渡の芸能集団【鼓童】の清々しい若者達が訪れて
7月の舞台【若い夏】に向けて、何かを一緒にできないか?
そして僕らを見てどう思うのかを聞きたいという。

といっても、それらはまだ手探りの段階だが・・・
若い鼓童の演者達が真っ直ぐ、自分の前に立っていた。



戻るべき原点を忘れない。
無心に土を塗ること、ただ太鼓を無心に打つことに。
迷う程に、立ち帰る場所に戻り=哲学を失わない意志があれば
そこに余白=自由な領域が生まれ、許される。

許された余白が
新鮮なものとなって伝わるのではないか?


去る者がいる。
残る者がいる。

なによりも大切なのは、鼓童が好き、秀平組が好き
そういう想いが矛盾を呑み込む力を持ち
自分達らしい変革が起きるのではないか?

飛騨にある秀平組に関わる場所を、一つひとつ
時間の許す限り案内し、
そこにどんな背景があったか
なぜそうしたか、それがどう言う結果に繋がったかを伝えた。
一晩、時間をかけて話し合った。

翌朝
冬枯れの樹林の中で、
なかなか燃えつかぬ火を皆でおこして
赤々と燃えた火を囲んだあと
若い演者達の唄を聴いた。
そして鼓童の里へ帰って行った。

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様々なメールに
答えられたり、答えられない場合もあると思うが
一枚の土の表情から空気へ、空間へ建築へ、
そして風景や蝶につながっていった変革を経て
人や事との出会いが少しづつ広がっている。

1月27日からは
新宿伊勢丹にて8ヶ所のウインドゥディスプレィーを手がける事となり
壁の展示も行う予定である。

それらは立ち帰る場所を持てているから出来ることかもしれない。

それを原点とし自分らしい変革の
「左官、メタモルフォシス」を実現して行きたい。



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ここで

去年出版した【ひりつく色】の中に書いた
左官メタモルフォシスを、このブログの場で

               再び、載せたい。





【左官、メタモルフォシス】



左官とは、
土やセメントや石灰を主な材料にして、
建物の外壁や内壁、土間などを塗る仕事である。


ところが、自分の左官は、
       意外な進化を遂げつつある。



それはまず、
とびっきりの「一枚の塗り壁」からはじまった。


左官は土(またはセメント)を塗っていると
ほとんどの人が認識しているけれど、

実は左官は“水”を見ている。


水と土、砂、セメントなどを微妙に配合(塩梅)し、
陽の光や風や湿度によって
変化してゆく壁の「水の引き具合」を察知して、
下塗り、中塗り、上塗りをしているのである。


水分が徐々に抜けてゆく
その限られたタイミングの中で、

いく通りもの技能と素材の仕掛けを盛り込み、
狙った時間帯で素早く作業を終える。


たっぷり水分を含んだ塗りたての壁は、

やがて水が抜けることで、
土の中に混ぜ込んだ藁や砂粒の微細な起伏が現れ、
柔らかな粗面が浮き立ってくる。


そこに左官の【表情】が生まれる。
とびっきりの塗り壁は、こうしてできあがるのだ。


「いい壁ができたなぁ」と、皆、満足そうな顔つき。


「それなら次は、このとびっきりの壁で、
部屋の四方をぜーんぶ塗って囲まれてみたらどんな感じがするんだろう」


できあがった部屋の真ん中に立って、なるほど、とわかってくる。


そのやわらかな【空気】の心地よさに
皆がやさしい部屋だな、と感じる空間が生まれたのだ。


“今度チャンスがあったら、
四方だけじゃなくて、天井や土間も含めた内部全部を塗ってみよう”


すると部屋は、
繭のように塗りくるまれた【空間】となって、
俺たちは寝ころがって
安心感に包み込まれるのを感じていた。



あるとき、無機質で仮装的な、
カタログから選ぶ、工業パネルの組み立てになってしまった家並みに
息がつまり、

「やっぱり外壁は貼るんじゃなく、塗らなければダメだ!」と


大きな外壁を、大胆にぐるり塗りあげてみると、


その家は遠くから眺めるほどにドッシリと座り、
ザックリした素材が光と影をまとった
根のある【建築】に変わったのである。


つくることのすばらしさ。


地に座った建築の存在感に、
左官の喜びと誇りを俺たちはあらためて実感したのだった。


「左官は自由自在だ」そう思えて、もう一歩前へ出てみる。


“だったら、玄関先の石積みや、
アプローチのテラスだって、
建物をとり囲む塀や門柱だって、俺たちならすぐできる!”


今度は、自然石を微妙に組みあわせた庭づくりや、
湧き水が舐めるように流れる水路をつくり、
そこに山採りの名もない低木を植え込んでみた。


そこには、空や、背景にある山々が、
うっすら雪化粧をした雪景色に溶けあっている、
【風景】に進化した左官があったのだ。


左官が風景の一部となった。
“左官は風景をつくることができる‼”



そのうちに、
俺は仲間たちにこんな訓示をするようになっていた。


「俺たちの塗り壁は、
土と水と光、この三つを微妙に感じとって、
自然と折りあいながらつくっているわけだから
山野草を植えたり育てたりするときも


左官の五感があれば、
その自然の声を聞くことができると思わないか。



これからは、
自分たちにできる範囲の
自然との関わりすべてを、俺たちの左官と考えよう」



実は、十年以上前から、
大正時代に建った小さな館を
手つかずの雑木林に移築する、
そんな夢を続行している。


鬱うっそう蒼と広がるクマザサを刈り、
樹を倒して地ならしをし、
樹林全体に自然石の散策路をつくったり。

植え込んできた山野草の生き生きとした新芽を、
とびっきりの壁の塗りたてのような気分で眺めている。


三年前、ドラマが起きた。

五月の日曜の午前。


ハラハラと、
何度か視界に入ってくる一羽の蝶を気にすることもなく、
育ててきた山野草の成長を確かめていた。


しばらくしてハッとふり向いた。


植え込んでいた山野草の「アオイ」の上を、
蝶が繰り返し舞っている。
一瞬、目を疑った。“『春の女神』だった!”



それは、
絶滅危惧種第二種に指定のギフチョウ。
黒い縁どりの黄色い翅はねに、
赤と青の斑点の鮮やかな模様から、別名『春の女神』と讃えられている。


サクラの開花にあわせて春の二週間だけ、
カタクリやスミレ類などが咲き競う野山を舞う蝶。


四季の美しい日本でも、
自然界の最高傑作といわれる野生のギフチョウが、
            目の前に一羽、舞っていたのである。



ギフチョウは雑木林のシンボル。
芽吹いたばかりのカンアオイの葉に卵を産み、
幼虫は若葉を食べて成長し、
初夏には地面に近い場所で蛹さなぎになり、翌春まで眠りにつく。
森林に太陽の光が差し込む、
光と緑の絶妙なバランスの中に生きるギフチョウは、


人間と自然のすきまを棲家としてきたが、
人間一辺倒か、自然一辺倒に二分されてしまった現代に、
生きる場所を失い、絶滅に追い込まれた蝶なのだ。



そのギフチョウは一度限りで消えてしまい、
もう帰ってはこなかったが、

その時、
アオイの葉裏に卵が産み落とされていたのだ。

       あのとき、俺は蝶の産卵を見ていたのだった。


ギフチョウは生き延びようと、俺たちの場所を選んだのだ。



それは言ってみれば、
一枚の壁が一歩ずつ進んで蝶になった瞬間ともいえた。

卵は樹林で十五匹の幼虫となって、
         必死にアオイの葉を食べているのだった。



翌春、五羽のギフチョウがこの樹林に住みつき、
いまでは毎年春になると、自分の肩や足元を、
からかうように、ギフチョウが舞っている。


︱︱自然と人間のあいだ︱︱。


その調和の中に身を置いていると、
ふと我を忘れた時間が過ぎていることに気づく。



左官は
「人間と自然をつなぐことができる」のかもしれない。


あるとき、ふと、もしも。

もしもここに、
病を持った人を招いたとしたらどうだろう、と思うときがある。


人をもてなし
癒すことのできる空間と景色は、
病によい影響を与えるほどの、
想像を超えた力を持っているのではないだろうか。


そう考えると、
「ホスピタリティ」という言葉から想像されるイメージは、

        けして左官と遠いものではないのかもしれない。



つまり、左官は病院やホスピスとそう遠くないとしたら、

それも、
左官の仕事と言えるのではないか。


俺たちの表現は、
肌ざわりであり、気配であり、水を命としているのだから。


いまの自分は、
左官という言葉で世の中に認知されているけれど、


自分たちらしい変革と転身であるなら、
たとえ「左官」という職業でなくなってもいいと思っている。


新しい組み合わせ、新しい企画。
どんなジャンルでも、どんな人物であっても、

認め合えれば、引き出し合えたなら、
           新しいなにかが生まれる。


俺たちは新しい仕事、「左官、メタモルフォシス」になりうるか。


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