遠笛

左官−挾土秀平のブログ
一、壁 ニ、障子 三、柱




2014年、師走。

古い町並みのメイン通りから
一本隣の角地で久しぶりに、
地元で仕事らしい仕事をさせてもらった。

施主はまだ40代と若くて、
ただ安さ一辺倒ではなく、良い施工をしてほしいという

もちろん限りはあるが、
強い意志を持っている人物である。

外部全部を任せたいと言うと、後はいっさい口を出さない。
環境的に難しい条件だったが
そんな施主の心意気に、
ただ古いだけに見えないよう、といって明るく新しすぎないよう
漆喰の色には精一杯こだわった。


話は変わって
10日程前、全国の志ある左官の集まりが神戸で開かれた。


今回は改めて京壁の
施工法や考え方について
実物を見せながら直接説明するものだったが、


やはり、

本当の、数寄屋の、職人技の
見方、考え方、タイミング、時間のかけ方、
道具の多様さ、複雑な素材へのこだわり、ブレない誇り、

妥協を許さない工程は、とにもかくにも奥深い。


どんなに世の中が変わろうと、なんであれ
施主側も職人側も
譲れないものは譲らない。


それらを知れば知るほどに魅力的で、

なんだか聞いていて、
こうした背景の中での仕事に、
きっと俺は、生涯恵まれることはないだろうなと、
逆にさみしくなった後、地域差というか、
もう別次元なんだと思い知らされてしまった。


そこに暮らす人達の誇りというか、
圧倒的な文化度、美意識と言うしかない
関西の歴史の底力は、まったく身体に悪い。



地元飛騨が、
いつから小京都という呼び名がついたのか、全くわからないが、
自分の知る左官からみれば、
その現実は壁の仕上りで6倍、かつ、
そのような仕上げをする為の職人肌の美意識、
道具や素材力で15%上乗せしたとして、
7.5倍ほどの差があると言っても、言い過ぎていない。


それは京都の一部だと言う具体的な反論があっても、
もうなんとも、住み人の根っこがまったく違うのだ。


今回の仕事は
2.5倍〜3倍ぐらいの条件を与えてくれた
地元飛騨では、とても珍しい現場であった。



いつか小林さんから教えてもらったことがある。
一、 壁 二、障子 三、柱
これが本当の、目効きの人が家を誉める順番だという話である。
まず、いい壁ですなと誉め、次に建具を・・・そして柱を誉めるという。



さて、
そんな神戸から戻って
その角地の建物へと車で向かっている時だった。
あれ!と気がついた。

何度か通っているはずなのに
今頃、気づいた自分も恥ずかしいが、愕然としてしまった。


自分の見解として
その建物は存在感という意味では飛騨No.1の、
言えば京都級の力ある存在で、

姿は関東風と言うか、
なんとなく喜多方の流れがあるような
なにより見事なのは、その外壁で
通りかかる度に、いつも立ち止まった。

見上げるばかりだったから、断定はできないが

あれは飛騨の名家などに、
時折見られる独自の色合いで
《灰・青・墨・鼠》色とでも言うか、
左官技法で言う、漆喰か否かも解らないけれど・・・・


その色合いが
100年か、もっとかもしれない時間を経て

くすんで、
枯れて、
あせて、
いっそう深く、

傷をも美に、品格にして、威容な力を放っていた。



飛騨を超えて
誰に見せても胸をはれる《ニッポン》だった。



その前を通るたびに、
なぜか誇り高くなってきてしまう
血のようなものさえ感じる存在。

つまり、
そのものが、建物が根をもち、
魂を宿しているようなものだった。



しばらくの愕然とは
その外壁が、濁りのない真っ白になって、起立していたのである。



気づいたのは、
いつもなら、周りの空気をも重く従えていた
その通りが、妙に軽くなったかのような空気感からだった。


ただ、それにしても


あれは團十郎だった。
闇を彷徨わなければ、目通り願わぬ武田信玄だった。
そこに座れ!と、睨み下ろす鬼神か雷神か
通りを従えて動かぬ、重石のような存在感だったのだ。


しかし
最近は、こうした現実をやむをえないと思っている。

地域の様々な絡みや、
いきさつ、経済的な面も含めて
今や、しかたのない時代の流れには
逆らえないのだ。


これは、日本中なことで
個人的な情熱があっても
経済的にも、技術的な知識の面でも
社会的、国レベルの支援がなければ、古い建築を維持することは難しい。
今の自分は、それを批判しようとは思わない。

京都と高山では事情もまったく違う。
比較はできない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


流れる車窓を眺めていた。


あの《灰・青・墨・鼠》色と肌をどう考えるか?
器で言うカンニュウが浮かび
ちりめん皺の肌あいが上手く出来れば凄くなる

その方法は?
選択する、その素材と配合は?、タイミングは?
いったん仕上げておいて、それだけではダメだ!
その後から、100年経ったかのような雰囲気をどう生みだすか
その行為自体、是か非か。
安易なやり方をしたら、品格どころか陳腐になる。
並大抵ではできない、・・・さてどうする?


などと、
いつの間にか集中して考え込んでいた。


・・・我にもどった。


せめて、捨てられたであろう
あの外壁の欠片ひとつ、欲しいと思った。









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